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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)1151号 判決 1949年12月26日

被告人

安部又錡

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年六月に処する。

原審に於て生じた訴訟費用は、全部被告人の負担とする。

理由

弁護人鈴木貢の控訴の趣意は、末尾添附の同弁護人名義の控訴趣意書と題する書面記載の通りであるが、之に対し、当裁判所は次のように判断する。

右控訴の趣意第一点について、

刑事訴訟法に所謂証拠書類とは当該訴訟に関し、証拠の用に供する目的を以つて作成された報告的内容の文書を指称するものと解するを相当とするところ、本件記録に編綴されて居る所論の各取調請求書面を観ると、同各書面が夫々右説明のような報告的内容の文書に該当することを認め得られるので、所論の各取調請求書面には孰れも之を刑事訴訟法に所謂証拠書類と謂うに何等妨げがない。而して檢察官、被告人又は弁護人の請求により証拠書類の取調をするについては、裁判所はその取調を請求した者に之を朗読させれば足ることは、刑事訴訟法第三百五條の明規するところであり、原裁判所が所論の各取調請求書面について、之が証拠調を爲すに際つて、其の取調を請求した者に夫々之を朗読させたことは原審第一回公判調書の記載に拠つて明らかであるから、右各書面に付爲された原裁判所の証拠調手続は適法であつて、此の点に関し原裁判所の訴訟手続に所論のような違法は存しない。次に原判決が原判示事実を認定するに際つて、論旨摘録のような各証拠を援用して居ることは洵に所論の通りであるが、同援用証拠中所論の被害届並各調書に付夫々原裁判所に於て適法な証拠調が爲されて居ることは、曩に説明した如くであるから、原判決が右の被害届並各調書を原判示各事実を認定する資料に供したのは正当であり、延いては原判決は所論のように被告人の原審公判廷に於ける自白のみに拠つて、原判示各事実を認定したものでないことも、其の説示自体に徴し明らかであるから、此の点に関しても亦原判決には何等所論のような違法の廉がない、依つて進んで、原判決に所論のような理由不備の違法があるか否かに付いて按ずると、刑事訴訟法第三百三十五條第一項は有罪の言渡をするには、罪となるべき事実、証拠の標目及び法令の適用を示さなければならない旨規定するに止るが故に、数個の罪となるべき事実に付之が証拠の標目を示すには、必ずしも罪となるべき事実各個に付いて、夫々之が証拠の標目を示すの要なく、各個の罪となるべき事実の記載と相俟つて、同各事実に付援用されて居る証拠の標目が如何なるものであるかを知り得る程度に説示すれば足るものと解するを相当とする。之蓋し刑事訴訟法第三百三十五條第一項の規定が、判決作成に関する事務を簡捷化しようとする趣旨に出でたものであるからである。今之を原判決に付いて観ると、原判決は原判示第一乃至第九の罪となるべき事実を説示して居るに拘らず、其の各個に付夫々証拠の標目を示さないで、論旨摘録のように証拠の標目を示すに過ぎないけれども、之を原判示の罪となるべき各事実の記載と照合すれば原判決は原判示の罪となるべき各事実に付夫々右証拠の標目中被告人の原審公判廷に於ける当該罪となるべき各事実に関する旨の供述の外の当該被害者の被害届、又は供述調書の各記載を之が証拠の標目として示して居る趣旨であることが輙く看取されるから、此の点に関しても原判決に所論のような違法があることは謂い得ない。之を要するに原判決には所論のような違法の廉が一として存しないが故に、論旨はその孰れの点からするも、其の理由がない。

(註) 本件は量刑不当にて破棄自判。

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